お侍様 小劇場
 extra 〜寵猫抄より

    “ウチにも来るかな? サンタさんvv”


師走と言えば、何と言っても年の瀬、年越し。
社会人は、決算、若しくは大売り出しへ向けて大忙しだし、
取引先やお世話になった方へのご挨拶、
お歳暮をそろえに奔走したりもし。
その隙間を縫っての忘年会にも顔を出さねばならぬ。
ご家庭においでの奥様・お母様たちも、
幾らマメなお人でも、清めの意味もあることと、
1年分溜まった埃を払う大掃除に勤しんだり。
はたまた新春を迎える用意をあれこれとチェックしたり、と。
大人の皆様は大なり小なり特別なお務めを抱えておいでで、
色々と気ぜわしくなるらしく。

 “まあ、ウチはそうまでドタバタはしないんだけど。”

男二人の気楽な住まいようなので、
さほどに改まったお客が来る訳でなし。
大掃除というものも、
敏腕秘書殿が日頃きっちりこなしているので、
この時期に大慌てで
エアコンだのレンジフードだの取り外してという
大掛かりな清掃大作戦を執行することもなく。
それより何より、年末年始は
毎年のように決まったお宿へ年越しに出向くので、
お客さんという身に収まってののんびりしたもの。
なので、
世間様の慌ただしさを
他人事のように眺めやるのが毎年のこと。
むしろ、こちらのお家では、
大人ばかりのお宅だというに、
お正月の前にあるお楽しみ、クリスマスの方をこそ、
ツリーの飾り付けやらそれ向けのDVD鑑賞のほかにも、
今年初めてお庭に出す予定の
光り物のオブジェと庭木へのライティングとか、
あれこれこっそりと準備なんかしつつ、
心待ちにしていたりするのである。

 「にゃ?」
 「あ、クロちゃん。」

朝食の支度をあらかた整え、
新聞を取りにと門扉のところまで出ていた七郎次、
おお寒いと肩をすくめ、一体いつ届いたものか、
何通かのDMと一緒に朝刊を取り出して戻って来た玄関先には、
庭先のどこかへお出掛けだったか、
小さな黒猫さんがちょこりと座って待っており。
だがだが、

 「……あれれ?」

夜中に出掛けることも出来るよに、
お勝手のドアの下へ小さめのスイングドアを設けちゃいるが。
確か今朝は、起きぬけに通りかかったリビングで、
コタツ布団の裾辺りに、
久蔵と一緒に丸くなってた彼を見かけたような気がした七郎次。

 「もしかして、アタシを待っててくれたのかな?」

すぐそばまで近づいて、ひょいと屈むとそうと訊く。
久蔵と違って、こちらさんは生粋の猫なので、
人の言葉が判るとも思えぬのだが、

 「みゃあvv」

潤みの強い、金鈴のようなお眸々を細め、
可憐なお声で、嬉しそうに鳴く子なもんだから、

 「〜〜〜〜〜〜〜。///////」

いやですよぉ、この子ったら、どんだけアタシを喜ばすのやら、
略して“惚れてまうやろぉ〜〜vv”を、
さっそくにも炸裂させるお兄さんだったのは言うまでもなく。

  にゃうみぃvv
  ええ、ええ、急いでご飯にしましょうねvv

お昼間は暖かでも朝だけは放射冷却で冷え込む、
さすがの師走と実感させられるほどの寒さも、
一瞬でぶっ飛んでしまったおっ母様だったのも、
これまた言うまでもなかったり…。(笑)




       ◇◇◇



新春初売りのご本への原稿も
とっくの昔に仕上げての各社へ手渡しておいでで、
余裕で一足早く冬のお休みに入っておいでだった、
島谷せんせえこと、勘兵衛も、
寝坊をすることなくの起き出していての、
そちらさんは久蔵をじゃらしておいでだったので。
お待たせしましたね、さぁさご飯に致しましょうと、
温かい食卓で家族一同が向かい合う。
カマスの一夜干しに だし巻き玉子。
旬の大根おろしは瑞々しいので、
どちらに合わせても一味変わって乙な風味。
昨夜の残りの筑前煮に、ナスとキュウリの浅漬け添えて。
お味噌汁はシメジと絹こし豆腐であっさりと。
よそったご飯が湯気でけぶる中、
少し厳粛に改まり、いただきますと手を合わせれば、

 ああ久蔵、それはスダチです。
 ちょっかい出してますが、あんた、苦手だったんじゃないですか?
 ほれ、玉子焼きですよvv
 クロちゃん、カマスも食べますか?
 まだ ちょっとだけですよ?
 あ、勘兵衛様、お醤油はこっちですよ。
 味つけ海苔が開けられない? どれ貸してご覧なさいまし。
 そっちは枝豆入りのしんじょです。
 昨日テレビで“おせちにいかが”って
 レシピを紹介されてたので作ってみたんですが、
 いかがですか? ……ああ良かったvv//////

………と まあ、
おっ母様が忙しいのは、毎食のことなんでともかくとして。(笑)
美味しくもにぎやかなお食事が済めば、
食器を下げてきっちりと洗い。
洗濯物への陽の当たりようを庭へのチラ見で確かめて、さて。
新聞と共に持って来たDMを一応はと選別していた秘書殿だったが、

 「あれ?」

何通めかへ目を留めて、思わずだろうがお声まで上げたものだから。
一緒におコタへ入っていた勘兵衛、
空いていた一角から
コタツの中へと匍匐前進していった
やんちゃ坊主を見送りながらも、

 「? いかがした?」

案じるような声をかければ。
白い指先で口許をつついていた七郎次、

 「いえね、このDMが。」

そうと言って彼が手にしたのは、A4版くらいだろうか、結構大きめの封筒だ。
赤と緑というカラフルな配色は言わずもがな、クリスマス向けだと知らしめており。
裏面に印刷されたファンシーなロゴから察するに、
どうやら国道沿いの郊外に出来た大型ショッピングモールからのご案内らしい。
殊に、かわいらしいタッチのイラストで、
ツリーやサンタ、プレゼントの箱が躍っている封筒なので、
玩具やCD、DVDなどを扱っている某アミューズメントチェーン店からの、
クリスマス・バーゲンのお知らせなのは明白だったが、

 「ほら、ここです。」

セロファンが貼られた小窓から覗くのは、
宛て先としてだけじゃなくそのまま通販にもつかえる注文票の住所部分で。
そこへと綴られてあったのが、

  ―― シマダ キュウゾウくん

 「………なんだこりゃ。」
 「ですよね。」

そういや、レンタルコーナーの会員登録をした覚えはあるので、
そのお店からといや、七郎次の名でDMはがきが届くことはあったれど。

 「小さなお子様向けって対処ですよね、これ。」
 「うむ。」

だがだが、ウチには玩具はいかがと勧められるような幼子はおりませぬ。
わたしらには久蔵が坊やに見えておりますが、
他のお人からは小さなメインクーンにしか見えぬはず。

 「ペットコーナーでも出来たんでしょかね。」
 「それにしたって、どうして名前までピンポイントで判るのだろな。」

そんなアンケートなぞには応じた覚えもありませんが、と。
だからこそ、何でだろうと最初に小首を傾げた七郎次だったが、

 「まあ、商店街じゃあ名を売ってる子ではありますから。」

いわゆる“じゅうたん爆撃”方式で、
こういう調査をするアルバイトとかもあるのかも知れませんねと、
困ったことだと眉を下げて見せた恋女房の言いようへ、

 「……。」

その精悍なお顔に浮かんでいた表情を、微妙に止めた勘兵衛様。
ややあって、
無邪気な笑みを満面に浮かべ、
遊しょぼ遊しょぼとお膝へ寄って来た
金の髪した小さな坊やをひょいと抱え上げた動作と同時、
紛らわせるよに告げたのが、

 「…シチ、それも言うなら“ローラー作戦”だ。」
 「あれ?」

時々、自分より古臭い物言いも飛び出す彼なのへこそ、
苦笑がこぼれてしまう勘兵衛だったりするのだった。




  ◇ おまけ ◇


  「ところで、そんなアルバイトがあるものか?」
  「あ、勘兵衛様たら御存知ないのですか?」
  「……うむ。」
  「自動販売機を設置するのに適した一角を調べたり、
   BSアンテナを上げている家を
   こそりとNHKに知らせるバイトとかあるんですってよ?」
  「そ、そんなことまで飯の種になるものなのか?」
  「何と言っても、今や情報化時代ですからね♪」
  「……七郎次、それは ちとカテゴリが違うような。」
  「あれ?///////」


  お後がよろしいようで……。


   〜Fine〜  2011.12.14.


  *某といざらすとか、ゲームソフトや古本レンタルのげおとかから、
   新聞広告やポストへ投げ込みのチラシどころじゃない、
   ちゃんと封筒に入ってて、こっちの住所氏名も記載されてる
   カタログ入りDMが届くことがままあります。
   小姫ちゃんはまだ1歳2カ月。
   西松屋をご贔屓にしちゃあおりますが、
   玩具屋さんへは、会員になるほど まだ通ってもないのに、
   とらじろうのDMもばんばん届きます。
   いくら少子化時代とはいえ、油断も隙もないなぁ。

  *とて。
   仔猫さんたちお気に入りの玩具は
   相変わらずに熱帯魚の風船たちなんですが。
   こないだワイドショーで、
   体長1m以上はあるサメやイルカ(だったかな?)の
   リモコンつきバルーンを紹介されてまして。
   あんなデカイの、
   天井が吹き抜けの20畳はあるリビングででもないと
   回遊させられないぞ、大変だvv…という筋違いな感慨を持った私は、
   両親の住み込み先だっただけですが、
   体育館とか旧子爵様のお屋敷とかに住んでた経験保持者です。

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